東京オリンピック女子マラソンの本命?グウェン・ジョーゲンセンがマラソンに転向
2020年に開催される東京オリンピック。
女子マラソンの金メダル争いに思わぬところから名乗りを上げたランナーがいます。
それが2016年リオ五輪の女子トライアスロン金メダリストのGwen Jorgensen(グウェン・ジョーゲンセン、もしくはジョルゲンセン)です。
ランからトライアスロンへの転向はよくききますが、逆のトライアスロンからランへの転向だけでも異色です。ただこの人が特別なのはトライアスロンでは敵なしの圧倒的な女王としてピークを迎えた時期に転向したこと。
どれほどの走りをこれから見せてくれるのか楽しみでなりません。
まずは彼女のトライアスロンでの戦績を紹介します。
トライアスロンでの戦績
世界選手権、オリンピックでの戦績をまとめてみました。2014年後半からの圧倒的な戦績に驚きます。
2012年
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(シドニー):4位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(サンディエゴ):51位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(バニョラス):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(キッツビュール):11位
- ロンドンオリンピック:38位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(横浜):8位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズグランドファイナル(オークランド):2位
ロンドンオリンピックではバイクパートでのパンクもあり38位と奮いませんでしたが、ITU世界選手権シリーズでの優勝、グランドファイナルでの2位とこの年から頭角を現し始めています。
2013年
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(オークランド):DNF
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(サンディエゴ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(横浜):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(マドリード):4位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(キッツビュール):18位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ハンブルグ):6位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ストックホルム):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズグランドファイナル(ロンドン):DNF
この年は世界選手権シリーズで横浜を含む3勝をあげ、トップトライアスリートの仲間入りを果たしています。しかし彼女の凄さはこんなものではなく、2014年以降本格化します。
2014年
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ムールーラバ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(オークランド):12位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ケープタウン):3位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(横浜):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ロンドン):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(シカゴ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ハンブルグ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズグランドファイナル( エドモントン):1位
この年、女性トライアスリートとしては初の世界選手権シリーズ4連勝(グランドファイナル除く)を含むシーズン6勝を達成しています。
2015年
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(アブダビ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(オークランド):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ゴールドコースト):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(横浜):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ロンドン):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ハンブルグ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズグランドファイナル( シカゴ):1位
2015年はなんとシーズン全勝!もはや無敵状態になったジョーゲンセン。目標はすでにロンドンで果たせなかったオリンピックの金メダルに向いていたようです。
2016年
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ニュープリマス):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ゴールドコースト):2位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(横浜):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(リーズ):1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ(ハンブルグ):3位
- リオデジャネイロオリンピック:1位
- ITU世界トライアスロン選手権シリーズ( コズメル):2位
連勝は13でストップするも、この年には念願のオリンピック金メダルを手にしています。まさに歴代トライアスロン界最強のアスリートと言えるでしょう。
経歴
※公式サイト(http://www.gwenjorgensen.com/race-schedule/)およびウィキペディアからの情報です。
1986年ウィスコンシン州生まれ。
高校時代は水泳と陸上で優れた成績を残し、ウィスコンシン州立大学マディソン校進学後は水泳に専念します。
2004年から2007年まで水泳でBig Ten(アメリカ中西部の大学リーグ)の選手権に出場すると、その後陸上に転向。
陸上では同じくBig Tenの3000m、5000mで優勝します(2009年)。
とはいえ競争の激しい陸上界。大学卒業後は陸上から一旦離れます。大学では会計学の修士号まで取得して、アメリカの公認会計士試験(CPA)に合格後、税理士として働いていました。
その後、アメリカのトライアスロン協会からのスカウトでトライアスロンを始めたジョーゲンセン。2010年のトライアスロンデビューから順調に実力をつけてトライアスロン界の頂点に上り詰めたのです。
ジョーゲンセンの才能に目を付けたトライアスロン関係者の功績は計り知れないですね。
妊娠、出産、そしてマラソンへの転向
リオオリンピック後に彼女自身のブログで東京に向けた目標を発表しました。少し引用してみましょう。
But the big question is what’s after that? Charlotte knows, Patrick knows, but not many others know. I’ve been afraid to say it aloud because I’m scared of failing; but if I’ve learned anything these past four years, it’s that I can condition myself for greatness. So, I’m going to start conditioning myself now for my next life goals: Patrick and I want to have a baby and I want to go to Tokyo 2020. There, I said it. It’s in the universe and there’s no taking it back.
次の目標は何でしょう?シャーロットやパトリック(夫)には言っているけど、他の人にはまだ言っていません。だって宣言しておいて失敗してしまうことが怖いから。だけど今までの経験から、宣言することで大きなことを成し遂げられることを学びました。だから次の目標に向かいます。それは、赤ちゃんを授かること、そして2020年の東京オリンピックに向かうこと。目標を宣言したから、もう引き返すつもりはありません。
2016年10月の記事で宣言して、2017年の1月には同じく公式ブログで妊娠を発表しています。
妊娠中もトレーニングを継続していたようです。すごいですね。
https://twitter.com/gwenjorgensen/status/984811416329728000
そして8月に男の子(Stanleyくん)を無事に出産します。
One year later and my top accomplishment has been topped! So glad to have Stanley home with us ❤️ pic.twitter.com/AmfdrivLIj
— Gwen Jorgensen (@gwenjorgensen) August 21, 2017
出産後の11月にtwitter上で東京オリンピックのマラソンで金メダルを目指すことを発表したのです。
https://twitter.com/gwenjorgensen/status/927929085539491840
ランの能力はどのくらいあるのか?
果たしてジョーゲンセンはマラソンでどのくらいやれるのでしょうか。
まずはトライアスロン時代のランの記録を見てみましょう。
トライアスロン時代の記録
オリンピックディスタンスではSwim1.5km、Bike40kmの後にRunで10kmを走ります。その10kmの記録を2015年、2016年の主要大会から拾ってみました。
2015年
- オークランド:34:10
- ゴールドコースト:33:35
- 横浜:32:36
- シカゴ:32:43
2016年
- ゴールドコースト:34:17
- 横浜:32:15
- リーズ:33:29
- リオ:34:09
- コズメル:35:44
最速は2016年の横浜大会で32分15秒です。それ以外にも32分台を2回記録しています。
ちなみに10000mの女子の日本記録は渋井陽子選手の30分48秒ですが、31分台を出せば日本では一流の記録です。長距離を泳いで自転車に乗った上で、ロードで32分15秒を出すのですからランの能力は恐ろしく高いとみていいでしょう。
次にリオオリンピック直後に練習不足の状態で望んだニューヨークシティマラソンの記録があります。マラソントレーニング開始前ですのでほとんど参考にしかなりませんが、フルマラソンを2時間41分で完走しています。
ラン転向後の記録
ラン転向後の2月9日に室内での大会(Husky Classic)に出場しています。
5kmに出場して結果は15分15秒52で2位。
この記録も相当いい記録で、日本歴代だと18位に相当する記録です。室内では若干記録が落ちることを考慮すると、日本トップクラスのスピードをすでに持っていると言っていいかと思います。
次に10000mの大会にも出場しています。
4月2日のStanford Invitationalで31分55秒67を記録して優勝しています。
レース後のインタビューで彼女自身はもう少し良い記録が出ると思っていたようですが、それでも1流の証である31分台を出すのは流石です。また勝つためにこのレースを選んだとも語っており、その目的も達成しています。
5000m、10000mともに出産直後とは思えないほどの好記録を出しており、非凡なスピードを見せてくれたジョーゲンセン。今後の展開が楽しみです。
ランの能力以外にも東京オリンピックへの適性が
このようにランで非凡な才能を発揮しているジョーゲンセンですが、ランの能力以上に東京オリンピックで勝つために必要な能力を持っています。
それが暑さへの適応力です。
東京オリンピックは真夏の8月に開催されます。通常のマラソンシーズンは秋から春の涼しい時期ですので、そこでどんなに好記録を出せるランナーでも真夏の暑さへの適用力がなければオリンピックでの勝機はありません。
一方、トライアスロンのシーズンはスイムがある関係で3月から9月の暑い時期です。そんなトライアスロンで圧倒的な戦績を残したジョーゲンセン。この時点で暑さへの適性は証明済みです。
出場できれば金メダルのチャンスは大きいと思います。あとはアメリカでの国内選考会を突破できるかどうか。
オリンピックまであと2年。今後のジョーゲンセンについても随時紹介していきたいと思います。