心拍数を無駄に上げると早死にする?
雑誌「ランニングクリール」にパッパラー河合さんの連載があり、毎回楽しく読んでいます。2月号のテーマが”ランナー族と非ランナー族”で走らない人とランナーとの間の相違点のあるあるが書いてあり、これまた楽しく読むことができました。
その中の挿し絵で非ランナー族から言われるあるあるとして「人の一生の心拍数は一定だよ=ランニングなんかすると早死にするよ」という言葉があって、確かにあるなあ、と思って読みました。
ただ本当にランニングをすると心拍数を無駄に消耗して早死にしてしまうのか気になったので、今回の記事ではこの点について考察してみます。
心拍数を無駄に消費するのは本当か?
まず仮に人が一生で打つ心拍数が一定だ、という話が本当だとしましょう。
ではランニングをすると本当に心拍数を無駄に消費するのでしょうか?
この話には、生きる上でランニングなんかよりも圧倒的に長時間である“ランニングしない時”の心拍数の視点が完全に抜け落ちています。
確かにランニング中は心拍数は高くなるので、無駄に心拍を消耗しているように感じるかもしれません。しかしランニングで鍛えた心肺機能のおかげで、ランナーはランニングをしていないときの心拍数が普通の人よりも低くなります。
安静時の心拍数は普通の人であれば毎分60~80拍程度ですが、普段走っている人であれば50拍程度、アスリートレベルであれば40拍以下にまで下がります。
この普段の心拍数の低下を考慮に入れるとそれほど心拍を無駄に打っていないのではないでしょうか。実際に安静時心拍数の低下を考えてランナーと非ランナーで1日に打つ心拍数を少し計算してみましょう。
心拍数の具体的な計算例
非ランナーとして安静時心拍数60拍/分でまったく運動しない=常に安静時心拍数とします。
次にランナーとして、安静時心拍数50拍/分、ランニングを毎日2時間、心拍数180拍/分まで上げるという仮定をしてみます。こんな高強度で毎日2時間も走らないのでかなり極端な仮定です。
非ランナーが1日に打つ心拍数は60拍/分×60分×24時間=86,400拍となります。
一方ランナーが1日に打つ心拍数は180拍/分×60分×2時間+50拍/分×60分×22時間=87,600拍となります。
つまり激しく走ったにも関わらず、ランナーと非ランナーの1日の総心拍数の間にはわずか1%の違いしかないのです。実際にはランナーの運動時の心拍数はもっと低いし時間も短いので、むしろランナーの方が総心拍数は少ないでしょう。
つまり心拍を無駄にしているのは非ランナーの方で、ランナーの方が心拍数の観点では長生きできる、ということになります。
この結果はある意味当然で、ランニングで鍛えている人にとって、生活時間の中で圧倒的大半を占める非ランニング時の身体への負荷はとっても小さい、ということでしょう。
この”非運動時の身体への負担”という視点だと、どういうスポーツが寿命に悪そうかということも分かりそうです。
例えば思い込みもあるかもしれませんが、寿命が短そうなイメージのある相撲なんかは、体重も増やして食事も大量に摂取するので、非運動時の身体への負担はやはり大きそうです。
そもそも生涯で打つ総心拍数は一定なのか?
そもそも人が生涯で打つ心拍数に上限があるという”通説”は本当でしょうか?
ネットで検索するとよく出てくるのが、人に限らず動物は生涯で20億回の心拍を打つと死ぬ、という情報です。
とりあえず人が生きている時の平均心拍を運動している時を考えて80拍/分として計算してみると、20億回打つのは47年!と計算されます。
つまり通説に従えば人の寿命は47年、ということになります。この時点でこの情報おかしいですよね。情報載せている人はこんな単純な計算も自分でしてないことが分かります。ちなみにゾウの心拍数は30拍/分と人の半分以下ですが、寿命は80年程度と人と変わらないないです。
また心拍数が上限に達すると死ぬのであれば、47歳以上の人の死因の圧倒的1位は心疾患になりそうですが、日本人の死因の1位はガンです。2位は心疾患ですが、ガンの半分です。
つまり人は別に心臓が原因で死ぬわけでは無い(おそらく他の動物もでしょう)ということです。
これらのことからも一生の心拍数は一定、というのは間違いだということが分かりますね。
ランナーの寿命に関する研究
ランニングと寿命の関係についてはいくつか研究結果も出ているようです。ポジティブな結果が多いようですが、ここではネットで“ランニング 寿命”で検索すると出てくるネガティブな情報について見てみましょう。
検索して出てくるNaverまとめの「【衝撃ニュース】ランニングは体に有害 寿命を縮めるという研究結果が…」という記事。Naverまとめの時点であれですが、良くみていくと出展の研究結果では、ランニング習慣のない人、ある程度走る人、ハードに走る人、という3つのグループに分けて調査を行い、ある程度走る人は死亡率が走らない人よりも19%下がった、ハードに走る人ではランニング習慣のない人と死亡率は変わらなかった、という結果なのです。
つまり”有害“ということはなくて、特に死亡率という観点ではハードに走っても変わらない、という内容なのです。
結局、寿命を縮めるという明確なエビデンスは無いというのが現状ではないでしょうか。市民ランナーとしては安心してトレーニングに励んで問題無さそうです。