距離別の陸上世界記録のVDOTを調べると地域の傾向が見えてきた
ダニエルズ式トレーニングで走力の指標として使用するVDOT。このVDOTは距離ごとの記録の違いを換算して、距離に関係なく共通で走力を評価します。
あなたの各距離でのレースの記録からVDOTを算出すれば、どの距離が得意なのか、という傾向を知ることができます。
同じようにある集団の各距離の最高記録のVDOTを並べてみれば、その集団の特性(例:長距離ほど強い、短距離ほど強い、など)が分かるかもしれません。
そこで今の世界記録、地域別の記録がどのようなVDOTとなっているかを調べてみると、面白い傾向が見えてきました。
1.地域ごとのVDOTの結果
さっそく距離別、地域別での記録をVDOTに換算した結果です。世界記録、日本記録に加えてケニア記録とアメリカ記録についても算出してみました。

距離別のVDOT記録。世界記録、ケニア記録、アメリカ記録、日本記録でそれぞれ算出。
世界記録の傾向
世界記録のVDOTは1500mから3200mまでがおおむね83台、そして5kmと10kmにVDOT=85のピークがあり、ハーフとフルマラソンはやや下がって84前後となっています。
5kmと10kmの世界記録は共にエチオピアのケネニサ・ベケレが2004年と2005年にマークしたものです。歴代記録をみてもどちらの競技も上位3位はVDOT 84後半の高い数字になっています。
これは5000mと10000mが陸上長距離の花形競技であり、あらゆる長距離ランナー(特にアフリカ勢)の土俵となっているためではないでしょうか。
ケニア記録の傾向
ケニア記録のVDOT分布はほぼ世界記録と一致しており、10kmで若干差がある程度です。どの競技にもコンスタントに強い選手を送りこんでおり、長距離王国としてのレベルの高さがあらわれています。
アメリカ記録の傾向
一方アメリカ記録のVDOT分布は明確に5kmと10kmが突出しています。
特徴はほかの距離の記録が2000年代に記録されているのに対して、5kmと10kmの記録は2011年と2014年と比較的新しい記録になっている点です。
アメリカでは最新の科学的トレーニングを適用して、近年長距離での記録を伸ばしてきています。有名なところではリオオリンピックの男子マラソンで銅メダルを獲得したナイキ・オレゴンプロジェクトのゲーレン・ラップ選手がいます。また女子もマラソンで6,7,9位と3選手が上位に食い込むなど、好調なのです。
先ほどの10000mのアメリカ記録もゲーレン・ラップ選手が記録したものです。
今後、5000m、10000m以外の記録も続々と更新されることがVDOTの分布から期待できるのではないでしょうか。
日本記録の傾向
日本記録のVDOT分布はどうでしょうか。ほかの地域と比べて二つの違いがあります。
- ハーフとフルマラソンのVDOTが5km、10kmと同じくらい高い
- 短い距離のVDOTが低い
日本の陸上長距離界でよく言われる弊害が、駅伝中心になっており長い距離のマラソンに対応できていない、というものです。しかし確かに駅伝で重要な10km、ハーフのVDOTは高いのですが、フルマラソンのVDOTも負けずに高い記録です。
このフルマラソンの日本記録は2002年に高岡選手が記録したものです。いかにこの記録が日本人にとって突出したものかがVDOT分布からも理解できます。今後もしばらくこの記録が破られることは難しそうですね。
しかし希望もあります。3000mから10000mの記録はどれも2014年以降に更新されたものなのです。この領域の記録が今後伸びていけば、フルマラソンの記録を更新できるような実力を持つランナーが生まれてきてもおかしくないでしょう。
さらに低い距離のVDOTについても、よりスピード寄りに取り組む選手が増えていけば、フルマラソン以上に記録更新が期待できると思います。
まとめ
VDOTの距離別の分布を調べることで、各地域の特徴が見えてきました。VDOTは個人の距離別の能力の分析にも非常に役に立つツールなので、自身のVDOTを調べて練習に反映してみてはいかがでしょうか。
